僕の初めての成功体験は、学校一の不良から「三角関数の自動計算ツール」の開発を指示されたことだった。
一銭ももらっていない完全なボランティアなのに、気分は完全に「裏社会の天才プログラマー」だった。陰キャのこだわりが生んだ、最高に嬉しい脳内受注案件の話。
高校1年の時の僕は、なかなかのクソ陰キャでした。
休み時間は基本的にずっと一人。1日のセリフ量が「うっす」の1言だけで終わる日なんて普通にありました。教室の隅っこで、いかに目立たずに1日をやり過ごすか。それだけを考えて静かに生きていたんです。
そんな僕の平和な毎日に、絶対に交わるはずのない人が入ってきました。 学年で一番有名な、めちゃくちゃ怖い不良と同じクラスになっちゃったんです。
見た目も雰囲気もとにかく怖い。関わったらそこで僕の高校生活は終了する。そうやってビクビクしながら気配を消していたのですが、ある日、予想外のところから事件が起きました。
陰キャのこだわりが生んだ「100点満点」
僕の学校には、建設関係の、三角関数とかを使う専門的な数学のテストがありました。
これがびっくりするほどややこしいんです。
ただ、現場のシミュレーションという意味もあったみたいで、テストには「ポケコン(ポケットコンピュータ)」という専門的な計算機の持ち込みが許されていました。
周りのみんなはそれを「ちょっと便利な電卓」くらいにしか使っていなかったのですが、僕はふと気づいちゃったんですよね。
「これ、プログラミング機能がついてるじゃん。公式をプログラムで組んちゃえば、数値を打つだけで答えが出るのでは……?」
誰に頼まれたわけでもないのに、陰キャ特有のこだわりが発動しました。
夜な夜なひとりで計算機の使い方を調べながらいじり、完璧な自動計算ツールを開発したんです。その結果、テストは見事100点満点でした。
ここまでは、オタクの秘密の楽しみで終わるはずだったんです。でも、初めての100点が嬉しすぎた僕は、つい調子に乗って周りに口を滑らせてしまいました。
「実はこれ、プログラム組んで自動で答えが出るようにしたんだよね……」
運の悪いことに、その呟きを、あの学校一の不良にバッチリ聞かれていました。
不良からの指示、そして「裏ビジネス」の始まり
「おい、それ俺のポケコンにも入れろ」
声をかけられた瞬間、頭の中の血の気がサァーッと引きました。断ったらどうなるか分からない恐怖から、僕は震える手で彼のポケコンを預かり、言われるがままにカタカタとコードを打ち込みました。
そして迎えた次のテスト。 普段は全然勉強していないはずの彼が、信じられないような高得点を取ったんです。
ここからの展開は、なんだか漫画のようでした。 「あいつのポケコン、マジで凄いらしいぞ」
噂は一瞬で不良たちの間に広まり、僕の席の前には、ポケコンを握りしめた不良たちがズラリと列をなすようになりました。
もちろん一銭もお金はもらっていないので、完全なボランティアです。
それなのに、当時の僕はポケコンを預かりながら「おっ、次の案件受注が入ったな」なんて、裏社会の天才プログラマー気取りで、この「裏ビジネス」の気分をちゃっかり楽しんでいました。
不良たちがくれた、初めての「承認欲求」
最初は本当に怖かったです。もしバグでもあって点数が悪かったらどうしよう、
ミスったら消されるのでは…とハラハラしていました。
けれど、完成したプログラムを渡すたびに、普段は怖い顔をしている彼らが「すげえじゃん!」「マジで助かった、ありがとう!」って、見たことのないような満面の笑みで喜んでくれるんですよね。
1日1回喋るかどうかだった僕にとって、それはもの凄い衝撃でした。
「僕の作ったもので、人がこんなに喜んでくれるんだ」
相手が不良であっても関係なく、自分の技術が誰かに必要とされて、純粋に感謝される。
お金の代わりに「圧倒的な承認欲求」を報酬として受け取っていたこの経験は、僕の人生の中で初めて「自分の才能が認められた」という、最高に嬉しい成功体験でした。
社会のプログラムを書き換えた日
もちろん、そんな美味しい裏ビジネスが長く続くはずもありません。
赤点ばかりだった不良たちがみんな急に高得点を取り始めたので、当然、先生たちに怪しまれます。ついにこの秘密のやり取りがバレる日がやってきました。
職員室に呼び出された時は生きた心地がしませんでしたが、意外にもお咎めはありませんでした。
先生たちも、まさか生徒がポケコンのプログラミング機能をそんな風に使いこなすなんて思っていなかったんでしょうね。
怒るというよりは、「お前、そんなことできるのか……」と呆れ半分で感心していたみたいです。
ただ、この事件のせいで、学校にひとつ新しいルールができました。
『テスト直前には、全員ポケコンをリセット(初期化)すること』
僕が作った数行のコードが、学校という大きな組織を動かして、新しいルールを作らせてしまった瞬間でした。
最後に:世界を変える手応え
テストの度、目の前でポケコンのクリアボタンを押されるのはちょっと悔しかったです。でもそれ以上に、当時の僕の胸の中には、なんとも言えないニヤニヤしてしまうような興奮がありました。
「僕の作ったものが、社会のルールを変えちゃったぞ」
この時の手応えは、大人になった今でも僕の根っこに残り続けています。
システムを理解して、ほんの少し工夫をすれば、たとえ教室の隅っこにいる陰キャであっても、世界に何か影響を与えることができる。
あの日、僕を無理やり巻き込んでくれた不良からの指示。あれは間違いなく、僕に「自分には社会を変える力があるんだ」と思わせてくれた、原点の大切な思い出です。

